特別視をしているつもりは、なかった。
あいつは確かに最強の不良で、並中の生徒ならば知らぬ者はいない風紀委員長で、並盛を裏から牛耳っているような奴かもしれないけど、だからってオレは不必要に怯えたりはしなかった。一人孤高であろうとするあいつの生き方を格好いいなと思うことはあるが、言ってしまえばそれだけ。ましてやリーゼント軍団のように心服するなんて以ての外だ。
先輩や友人たちからの「気をつけろ」という忠告に、いつだって「でもあいつだってまだ中学生じゃないか」と、そう思ってきた。年だってそう変わらない、あいつはオレと同じ子供であると。
なのに、オレは今、愕然としている。
校舎裏で倒れている先輩たちの側で、蹲っているあいつを見て。
「………っ…」
トンファーを握る手が、十分に距離が開いた場所で立っているオレのところからもハッキリと震えているのがわかる。それはわかるのに、その理由が全くわからなかった。
だって理由が見つからない。
あいつはいつだってあのトンファーで、それこそ理不尽と言えるほど身勝手な理由で沢山の生徒を咬み殺してきたじゃないか。そしてその処置を当然といわんばかりの態度で、いつだって真っ直ぐに立っている。
周りの批判など露ほどにも気に掛けていない様子で、学ランを羽織った背中をオレたちに向けて。
あの背中を折るのはすごく骨が折れるだろうなぁ、とそんなことを考えたことだってある。それくらいあいつはいつだって真っ直ぐで。だからあいつがあんな風に蹲る時があるだなんてオレには想像外のことだった。
何か思い悩むことでもあるのだろうか。
遣り切れないことでもあるのだろうか。
――なあ、あんたでも弱るときっていうのがあるの?
決して、特別視をしているつもりはなかった。
危機に颯爽と現れて助けてくれるヒーローだとか、世界を恐怖で揺るがすほどの力を持つ魔王だとか。そんな風にあいつを見たことは一度もない、そう思っていた。
あいつはオレと同じ中学生で、オレと一二歳しか変わらない子供で。
なのに、あいつが蹲っている姿を見て、オレはひどく驚いている。
2008/2/11 プログより脱稿